• HOME
  • CONTENTS
  • 【前編】PPS樹脂TORELINA™ の資源循環に向けた取り組み

【前編】PPS樹脂TORELINA™ の資源循環に向けた取り組み

東レは、PPS樹脂に特殊強化繊維を配合したマテリアルリサイクル用ペレットを開発しました。リサイクル材にブレンドすることで、バージン材と同等物性を維持できるようになり、水平リサイクルやその他幅広い用途での再使用が期待できます。また、リサイクル材使用率50%の場合、CO2排出量を40%以上削減することが可能となります。今後は、ポストコンシューマー材料を対象としたオープンリサイクルへの適用につなげるべく、より多くのパートナーとリサイクルスキームの構築を進め、“Ecouse”TORELINA™としての製品化を目指します。
前編ではPPS樹脂リサイクルの現状と課題から、TORELINA™(以下、トレリナ)の特徴や戦略について話を聞きました。

後編はこちら

*Ecouse®:東レのリサイクルに関する取り組みの統合ブランド

環境配慮型製品に欠かせない成長素材

ー 自己紹介を兼ねて、トレリナとの関わりについてお聞かせください。

豊田秀隆(トレリナ事業部長/以下、豊田)
入社以来一貫して樹脂に携わり、自動車用途を中心に担当してきましたが、2022年4月からトレリナを担当しています。ひとつの素材に専門的に携わるのは初めてですが、PPS樹脂は今後も需要が大きく拡大することが期待されている素材であり、非常にやりがいのある事業です。

高橋広樹(トレリナ事業部 大阪トレリナ課長/以下、高橋)
入社後、2~3年はPPS樹脂関連の生産管理を担当し、それからは一貫して15年間、PPS樹脂の営業を担当しています。単一素材でこれだけ長く営業に携わるのは当社でもめずらしいと思います。

堀内俊輔(化成品研究所 樹脂研究室 研究主幹 /以下、堀内)
PPS樹脂研究のリーダーをしています。PPS樹脂の製造技術に関する研究からはじまり、PPS以外のスーパーエンプラの研究にも携わりました。全社の研究スタッフを統括する経験を経た後に研究に戻り、そのタイミングでリサイクル技術の開発を担うようになりました。3年ほど前からサステナビリティへの気運が高まっており、その対応が社会的にも必要とされていると感じています。

山中悠司(化成品研究所 樹脂研究室 研究員/以下、山中)
大学では高分子を専攻していたこともあり、化成品研究所で入社以来PPSの研究開発をしています。この数年はサステナブルな社会に対応したPPS樹脂のリサイクルに関する研究開発を行っており、成長分野に一貫して関われていることにやりがいを感じています。

ー PPS樹脂、「トレリナ」の特徴について教えてください。

(豊田)
PPS樹脂は耐熱性、耐薬品性、寸法性に優れた特性をもち、金属の代替として使われてきました。トレリナの独自性としては、PPSメーカーとして唯一、樹脂だけでなく、繊維、フィルムも手掛けており、幅広いラインナップを備えている点です。
PPS樹脂における当社の生産能力は現在2万7,600tで、さらに2024年末から韓国で5,000tの増設を予定しています。PPS樹脂は年率6%の拡大が見込まれており、xEVを中心とした車載用途、エコキュートのような給湯器関連の産業水廻り、パワー半導体等、今後さらに拡大が見込まれる成長分野で多く採用されている素材となります。

*xEV:電気自動車やハイブリッド車など、動力源として電気を採用する自動車の総称

ー 市場環境が大きく変化してきているのでしょうか?

(高橋)
金属の代わりに樹脂を使うメリットは、錆びないこと、そして複雑な形状の部品が作れることです。また、部品に金属ではなく樹脂を採用すれば軽量化につながります。自動車であれば軽量化によって燃費を向上できます。それらの理由から、金属の代替品として樹脂化が進んでいます。
xEVが出てきたのは15年くらい前ですが、ようやく大きく成長してきたのがここ5~6年です。他にも給湯器のエコキュートなど省エネ製品向けのPPS樹脂需要が伸長しており、こうした環境関連製品の需要からもPPS樹脂の成長を、営業の現場において肌で感じています。

ー トレリナは、競合と比較してどのような点に優位性がありますか?

(豊田)
先ほど申し上げた幅広いラインナップを備えている点に加え、グローバルでの供給体制とサポート体制が充実している点も東レの強みとなっています。グローバルでの供給体制に関しては、重合拠点を日本、韓国の2か所にもち、コンパウンド拠点は日本、中国、タイ、欧州、米国、メキシコとグローバルに展開しています。同時に各グローバル拠点に技術センターを構え、お客様の近くで、お客様に寄り添った細やかなサポート並びにエリアごとに異なる市場の需要に合わせ、素材開発も行っています。

ー 具体的にどのような顧客サポートを行っているのですか?

(豊田)
東レは、樹脂メーカーとして唯一CAEソフトの開発販売を手掛けています。このCAE解析により、お客様の製品設計のサポートもしており。具体的には、製品の設計段階においてバーチャル上で性能や強度などを解析し、最適な樹脂の形状提案まで行っております。CAE解析のソフトを自社で開発しているのは、樹脂メーカーで唯一我々だけとなります。

ー グローバル生産拠点のひとつ、韓国の東レ尖端素材株式会社(以下、TAK)が ISCC PLUS認証を取得した背景を教えて下さい。

(豊田)
我々のお客様含め、社会全体がサステナブルであることを求められる時代になりました。サステナビリティに対応していかないと、社会に取り残されてしまいます。お客様で環境への取り組みを進められるなかで、カーボンフットプリントの低減、リサイクルやバイオマス原料を使用した樹脂へのニーズが高まっており、それにお応えするために今回ISCC PLUS認証を取得するに至りました。
ISCC PLUS認証は、マスバランス方式で製造されたバイオマス原料、リサイクル原料の製品をサプライチェーン上で管理・担保する認証制度です。今回の認証取得により、TAKは、植物由来のバイオナフサや廃プラスチックの熱分解油から製造された原料をマスバランス方式で割り当てて使用し、既存の石化原料を使用したPPS樹脂と同等の特性、物性を有するPPS樹脂を生産、供給することが可能となりました。

ー ISCC PLUS認証を日本の拠点でも取得したことは、さらなる推進力になりますか?

(豊田)
日本の東海工場でも昨年末にISCC PLUS認証の取得が完了しました。これを機に、さまざまなお客様に興味をもっていただき、個別に問い合わせをいただくなかで新しいビジネスにつながっていくのではないかと期待しています。

PPS樹脂業界におけるリサイクルの現状と課題

ー そもそもPPS樹脂は、なぜリサイクルしづらいのですか?

(堀内)
PPS樹脂は、他のプラスチックと比べ、使われている数量が圧倒的少ないのです。いわゆる汎用プラスチックは4億tくらい使われているのに対し、PPS樹脂は十数万t程度です。多いところから優先的にリサイクルされていくため、PPS樹脂は後回しになってしまう現状があります。

(山中)
包装容器等に使われている汎用プラスチックが最も多く、次にエンプラ、その次にPPS樹脂が分類されるスーパーエンプラと続きます。

(堀内)
PPS樹脂は、耐熱性や耐薬性が必要とされる特殊な部分に使用されるために数量は少ない一方で、なくてはならない素材でもあります。また、樹脂単独ではなく、ガラス繊維強化材や金属との複合部品として多く使われるため、金属等との分離が難しいことやガラス繊維が劣化してしまうこともリサイクルしづらい要因になっています。

ー そのようにリサイクルが難しいPPS樹脂を、なぜ東レはリサイクルできるのですか?

(堀内)
東レはポリマーから最終製品までを製造できるため、ポリマーを分析する知見があります。その分析により、PPS樹脂の場合、ポリマーそのものは非常に耐久性が高いが、混ぜているガラス繊維が破損して劣化してしまうことをつかめたので、今回の技術開発につながりました。
PPS樹脂は多くのお客様に使われていて、世の中になくてはならない素材であり、これからもさらに使われていく素材です。その素材をつくっているリーディングカンパニーとして、今後もお客様に安心して使い続けていただくために、PPS樹脂もリサイクルできることをお客様に広く知っていただきたいです。

ー リサイクルを推進するためには「回収」が大きな課題ですね。

(豊田)
我々だけでは回収できません。お客様がリサイクルを推進される過程で、いかに我々に戻してもらえるような体制を構築できるか、そこが課題です。

(山中)
ペットボトルや家電やエアバッグ等、法規制されている分野は回収するインセンティブがあるので、回収されやすいんです。PPS樹脂はそうした規制の対象になる製品には使われていないので、働きかけをしなければそのまま廃棄されてしまいます。その仕組みから変えていかないといけない、という使命感を感じています。

(豊田)
お客様の方にも回収を呼び掛けて、リサイクルスキームを構築するパートナーとして、ともに取り組んでいかねばなりません。

PPS樹脂のリサイクル技術が“三方よし”の新たな価値創出に

ー 「PPS樹脂もリサイクルできる」との周知が、さらにひろがっていくといいですね。

(豊田)
既存のお客様との打ち合わせの中で提案をさせていただく他、展示会でもPRさせていただいています。最近は環境配慮素材をテーマにした展示会も多く、自動車や家電、産業水廻りと幅広い分野のお客様に興味をもっていただいています。また、日本だけでなく海外からも、新しいお客様からの引き合いもいただいております。

(山中)
そもそも、金属の方がリサイクルしやすいんです。お客様からも「(金属よりも)プラスチックってリサイクルが難しいと聞くけど大丈夫?」と聞かれることが増えました。
PPS樹脂がリサイクルできるかどうか不安だというお客様に対して、その技術を提供できるのは現時点では東レだけなので、「それならば東レの素材を使いたい」と新たに当社と取引するきっかけにつながっています。

(豊田)
お客様にとって、これまでは「機能」「コスト」が関心の中心だったのが、社会からの要請や環境規制等によってサステナビリティに対応せざるを得ない状況になっています。そこにしっかりと提案、応えていくことが新たなビジネスチャンスにつながると考えています。
今まで入り込めなかったお客様にも、東レの取り組みに興味を持っていただき、新たな開発につながっているケースもあり、しっかりとビジネスにつなげていきたいですね。

ー トレリナのブランド戦略について教えてください。

(豊田)
PPS樹脂のリサイクルといえば“Ecouse”TORELINA™ だと、お客様に想起してもらえるようにPRしていく必要があります。2023年6月にPPS事業部から「トレリナ事業部」へと名称変更したのも、PPS樹脂=トレリナと想起してもらうことが目的の一つです。

(山中)
その結果として、より多くのパートナーとリサイクルスキームの構築を進め、さらにポストコンシューマー材料を対象としたオープンリサイクルへの適用につなげていき、サステナブルな社会の実現へ貢献したいと考えます。

後編はこちら