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東レとホンダが新たに挑むガラス繊維配合ナイロン6のリサイクル
(後編)

東レ株式会社(以下「東レ」)は、株式会社本田技術研究所(以下「ホンダ」)と、使用済みの自動車から回収するガラス繊維配合ナイロン6樹脂の部品を亜臨界水(高温・高圧状態の水)で解重合し、原料モノマー(カプロラクタム)に再生する、ケミカルリサイクル技術に関する共同開発契約を締結し、技術実証を開始しました。本件は環境省令和5年度脱炭素型循環経済システム構築促進事業(うち、プラスチック等資源循環システム構築実証事業)(補助)に採択されております。
ナイロン6のケミカルリサイクルスキームを構築することで、資源循環型社会の実現に貢献することを目指す、この共創事例について、東レとホンダ、両社のキーパーソンにインタビューを行いました。
後編では、サーキュラーエコノミーに取り組む重要性と、資源循環型社会の実現にこの共創がどのように貢献できるかについて話を聞きました。

前編はこちら

右端から

野見山浩一(東レ株式会社 樹脂・ケミカル事業本部 樹脂・ケミカルサステナビリティ・イノベーション推進室長/以下、野見山)

富永剛(東レ株式会社 研究本部 化成品研究所ケミカル研究室長/以下、富永)

平脇聡志氏(株式会社本田技術研究所 先進技術研究所 材料・プロセス領域 チーフエンジニア/以下、平脇氏)

三本陽明(東レ株式会社 自動車材料事業部長/以下、三本)

自動車業界におけるサーキュラーエコノミーの必要性と重要性

ー 自動車業界に対しては、資源循環や脱炭素について国からの期待も大きいのではないでしょうか?

(平脇氏)
石油の採掘に依存しない社会を、これからつくらなければなりません。商品で使う素材をカーボンニュートラルなものに近づけていかないといけない、という必要性を感じています。社会全体として25%は資源を循環させないといけない、というシナリオがあります。それに対して自動車メーカーとしても取り組まなければと思っています。

(三本)
マーケティングセールスの立場で言うと、リサイクル材をいかにうまく使いこなすかが鍵を握っていると感じています。自動車業界はスペックイン、すなわち品質が安定したものを提供することが必須というなかで、リサイクル材がどのように品質の安定を担保するかも重要です。品質が劣化しないようにリサイクルすることと、そのリサイクル材をいかに使いこなすかが、これからの課題と捉えています。

ー 自動車業界において「リサイクル材の活用」と「品質の担保」はトレードオフにもなりうる難しい命題ですね。

(平脇氏)
そこでホンダとしては「水平リサイクル」をキーワードに設定しています。廃材から再び、新材と同等の性能を有したものを循環材とするということです。その点からも、今回東レさんと一緒に行う共同開発は、ケミカルリサイクルにより新材によみがえらせる技術ということで大変期待しています。

ー ホンダも資源循環を重要テーマに掲げています。

(平脇氏)
はい、先ほど社会全体で25%は資源を循環させていかないといけないという話をしましたが、ホンダとしては2050年にサステナブル・マテリアル100%で車をつくるのと経営目標を掲げているので、そこに向かって邁進していく構えです。
現時点での見通しは、アルミや鉄をリサイクルした、いわゆるサステナブルな素材が10%、さらに50数%は公知の技術を応用すれば実現可能と考えています。残りの40%は新たな技術が必要な領域で、そのための技術開発を私たちの部門で担っています。

ー サーキュラーエコノミーを強く推進する欧州の動きに影響は受けますか?

(平脇氏)
欧州ではサーキュラーエコノミーの概念をいち早く打ち出していて、優れたリサイクラーさんが育っています。近年では、欧州ELV指令がホットな情報ですね。提案されているのは、ELV(エンド・ライフ・ビークル)すなわち廃車における再利用・リサイクル目標値を重量25%、さらに使用済み自動車部品における再利用・リサイクル目標値を前述重量の25%含まなければいけないと規定するもので、やらないといけないという機運が非常に高まっています。
自動車産業は非常に大きな産業なので、自動車でやれば、他の産業への波及効果が大きいということもあるかと思います。

(富永)
私たちが研究開発で取り組む対象は国内だけでなくグローバルですので、欧州の規制なども踏まえると、東レのポリマー製品についても性能だけを訴求するのではなく、どのように処理あるいはリサイクルできるかというソリューションまで併せて提案することが必須になってくると認識しています。
そして、世の中で「この資源をどうやって循環させたらいいのか?」という課題に対して、我々の技術開発でソリューションを提供できれば、新たなビジネスチャンスにつながると考えています。

(野見山)
異業種の方々との共創スキームを構築できれば、資源を循環させることは色々なかたちで実現できると思っています。今回の亜臨界水を用いた実証実験にしても、技術確立した暁には幅広く展開して、多くの用途で使っていただきたいと期待しています。

ー 幅広く使ってもらうためには、市場での認知を高めることも大事です。

(三本)
欧州ELV規制を受けて、日本国内でも各社、廃車由来のリサイクル材の検討をかなり急いで始めていますが、ハードルはかなり高いと考えています。
我々がこの共同開発で取り組んでいるリサイクル技術は汎用的な材料をリサイクルして再び使えるようにするものですし、品質の安定性も担保できる方法のため、実証できれば大きな推進力になると見ています。ゆくゆくは、この技術を用いればELV指標を達成できるというものになって、各社に使っていただけるといいですね。

一方で、回収する方もそれなりの量を回収しなければなりません。膨大な量を1社で回収することは不可能なので、色々なところとパートナーシップを組んで、原資を集めながらケミカルリサイクルしていく。そういう大きな「リサイクルの環」のなかで取り組みを進めていけたらと考えています。

サーキュラーエコノミー実現にむけた、新たな共創のあり方とは

ー サーキュラーエコノミーの取り組みを通じて、どんな変革を起こしていきたいですか?

(平脇氏)
ホンダでは環境負荷ゼロの実現を目指し、2021年には具体的な目標年や行動を定めた「Triple Action to ZERO」を掲げました。採掘資源の枯渇と廃棄に関する心配をなくし、サステナブルな社会の実現を目指しています。
これまでの社会の豊かさは採掘資源に依存していましたが、これからは循環する量を増やすことで、豊かな暮らしをさらに豊かに出来るのではないでしょうか。採掘資源からの脱却が求められていますし、それ自体が価値になっていくことが私たちが目指す変革です。

(富永)
ホンダさんとの共同開発において、自動車部品のナイロン6をきちんと循環させること、それができれば、ナイロン6から成る衣類などにも応用して循環させていく。すると今度は、ナイロン6で出来るなら、他の樹脂はどうだろう? という発展も可能だと考えています。
この取り組みについては、まずはホンダさんとチャレンジしますが、2社だけでクローズドでやろうとしているものではありません。こういうことが出来そうだと判明したら、他の企業の方々にも広く呼びかけ、場合によっては新しい技術も持ち寄って、サーキュラーエコノミーの環を拡大していきたいですね。

ナイロン6で「リサイクルの環」をひろげたら、次はポリエステルでも「リサイクルの環」をひろげられないか、また別の樹脂ではどうか。そんな風に素材ごとに循環をどんどん生み出していけるようになると、社会はだいぶ変わるのではないでしょうか。

ー これから想定される課題は?

(三本)
販売面では、廃車から回収し、それをリサイクルして製品に戻し、再び新たな自動車によみがえらせるというプロセスにおいて、どうしてもコストがかかってしまうのが課題です。規模が大きくなればコストは下がるので、最初の一歩が肝心です。最初のうちはサーキュラーエコノミーを実現するための付加価値としてコストを認めてもらうか、必要なコストとして社会全体で負担していく考えが大事になってくるように思います。
メーカーの立場でも、消費者の意識でも、「これをやらなきゃまずいよね」と感じることを、行動に移せるようになるといいなと思います。

ー この共創事例は、環境省の補助事業に採択されていますね。

(富永)
今回の共創事例は、「環境省令和5年度脱炭素型循環経済システム構築促進事業(うち、プラスチック等資源循環システム構築実証事業)(補助)」に採択されています。環境省に採択いただいたことで、国の支援を受けながら進めさせていただきます。
補助事業の申請については、ホンダさんと一緒にやるということを決めてから同時並行的に進め、審査会にもホンダさんと一緒に伺いました。代表事業者は東レになっていますが、共同事業者にホンダさんの名前も入っています。

(平脇氏)
環境省の補助事業に採択されたということは、税金の一部をこの取り組みに賛同して使っていただいているということで、社会からの期待を感じます。
東レさんは、これまでは材料のサプライヤーさんとしてのお付き合いでしたが、今回は東レとホンダが対等なパートナーとして一緒に開発に取り組むということで、これまでとは明らかにちがう開発スタイルになっています。

ー これからの共創のあり方や新しいパートナーシップの獲得について、皆様の考えをお聞かせください。

(平脇氏)
東レさんとこのように共同開発をスタートさせてもらっていますが、ある程度ボリュームを大きくしていかないと経済的効果を担保できないことは認識しています。技術開発についてはきっちりやったうえで、その先の商業稼働においては仲間づくりということで、他のOEMや他の業界の方を仲間に迎えて一緒にボリュームを大きくしていけたらと考えています。

(野見山)
これまでのような「競争」ではなく、協業しながら「共創」していくという視点が、これからのビジネスでは必要になってきます。環境というテーマの下に、みなさんに集まっていただければありがたいと思っています。

(三本)
仲間を増やしていくためにも、我々が今やっていることを成功事例として認識してもらい、「いいことをやっているな」と、自然と集まるようになれば一番いいかなと思います。

個人的なことを言うと、私が若手の頃にホンダさんを担当させていただいており、インテークマニホールドの開発に携わっていました。それを今度は回収して、他の製品によみがえらせるということに携わっていることがとても感慨深いです。時間軸でも大きなつながりができ、そこからまた新しいつながりが生まれてくるのが、サステナビリティにおける共創のもう一つの価値だと思います。

(富永)
これまでも大事なお客さまであったホンダさんから、今回「パートナー」と呼んでいただき、一緒になってこの資源循環を実現すべく取り組めているのは、私たち材料メーカーとしては研究技術開発冥利につきます。単に製品のスペックで評価されるだけでなく、「共に創っていく」というのは非常にいい話だと思っています。

「競争」から「共創」へと移り変わりつつありますが、サーキュラーエコノミーを推進するなかで、ここは「共創」しましょう、ここからは「競争」であらねば、ということもあるはずです。重合し、コンパウンドして付加価値化していくのは東レとしてがんばらないといけません。お互い協力するところは協力して、競うところで競い、切磋琢磨してやっていくことが持続可能な社会の発展につながっていくでしょう。この共創事例が、その第一歩になってくれるといいなと思っています。