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フィルム事業本部が共創先とひろげる「リサイクルの環」

Ecouse®は、東レのリサイクルに関する取り組みの統合ブランドです。フィルム事業本部では、共創先とともにMLCC業界初の「フィルムtoフィルム」水平リサイクルの仕組みを創出し、資源循環型社会の実現に貢献するPETフィルムEcouse® ルミラー®を上市しています。今後はMLCC以外の用途においてもリサイクルを推進していく方針とのことで、これまでの経緯と今後の展望についてフィルム事業本部の若手社員にインタビューしました。

MLCC業界初の「フィルムtoフィルム」水平リサイクル

森本雄大(フィルム事業本部フィルムサステナビリティ・イノベーション推進室/以下、森本): MLCC(Multi -Layer Ceramic Capacitor;積層セラミックコンデンサ)は、セラミックが持つ優れた高周波特性などのメリットを活かしながら小型で大容量を実現できるため、主にスマートフォンやテレビの高機能化に欠かせない部品として電子回路の広い範囲で用いられています。MLCCの製造工程において、東レのPETフィルムはセラミックを塗布してシート化する際のベースフィルムとして使用されており、後工程で剥がされた後は、サーマルリサイクルや他用途にカスケードリサイクルされていました。
一方でお客様は、使用済みフィルムをより有効に活用することはできないか、という課題感も抱えていました。MLCC用途におけるPETフィルムについては、東レがトップシェアを占めており、私たちとしてもフィルムのリサイクルに先駆的に取り組まなければとの想いがあり、双方の課題意識が合致したことから共創するに至りました。

吉岡瑛子(フィルム事業本部 ルミラー事業部門 ルミラー事業第1部 情報材料第1課/以下、吉岡):MLCC用途のPETフィルムには特殊な表面特性が必要とされ、代用品は存在しません。フィルムを今後も使い続けなければいけないからこそ、それをどうリサイクルしていくかということが重要でした。

森本:「フィルムtoフィルム」のリサイクルはMLCC業界初の試みです。海外など他社のリサイクルフィルムは使用済みフィルムではなく使用済みPETボトルをリサイクル原料として使用する「ボトルtoフィルム」が一般的であると認識しています。私たちは特にMLCC用途においては、資源循環型社会実現へのソリューションを提供すべく、水平リサイクルを推進してきました。

吉岡:「フィルムからフィルムへ」という点が一番の特徴です。MLCC用途において、 表面の状態をコントロールしなければならないという高い品質レベルが求められるなかで、フィルムからフィルムへリサイクルするには高度な技術を要します。
東レがこれまでの歴史で培った技術力だけでなく、MLCC業界のサプライチェーンにおける各種企業との関係を活かしながら、業界の中で真っ先にこの取り組みを進めていったことも、フィルムの水平リサイクルにおける東レの強みにつながっています。

サプライチェーン全体を巻き込んだリサイクルの仕組みづくり

吉岡:フィルムサステナビリティ・イノベーション推進室が、循環型サプライチェーン構築に必要な各種企業と連携してフィルム回収から生産、販売までの仕組みづくりを行っています。使用済みフィルムを回収する際には、フィルムの分別においてお客様にご協力頂く必要があるのですが、とりわけ大変だったのは、分別の重要性を認識して頂くことでした。
これまで廃棄していたものを回収するために分別するということは、工場をはじめ現場の方に従来と異なる動きをして頂く必要があります。例えば、工場には東レだけでなく他社のフィルムもあるため、その中から東レのフィルムだけを分別して頂く必要がありました。そうした対応をして頂く重要性を理解してもらうために、工場に何度も足を運んで対話を重ねてきました。
その過程で、例えば異物が混ざってしまうといったトラブルが起きた場合にも、「異物混入によって、リサイクルにどんな影響があるか」等を丁寧に説明したり、いろいろと試行錯誤を重ねたりしているうちに、現場の方も能動的になって頂けたように思います。

森本:MLCC業界のお客様からの要望も背景に、私たちが大事にしているのは「水平リサイクル」です。他用途由来のリサイクルチップを仕入れるのではなく、あくまでもMLCC用途にて排出されたフィルムを再び同じ用途へ活用するというのがあるべき状態だと考えるからです。そのためにどんな技術が必要かという視点で開発を進めてきました。
リサイクル資源をどう確保するか、どのように調達するかはビジネス上の重要なテーマになってきます。だからこそ、これまで捨ててしまっていた使用済みフィルムを「廃棄物」ではなく「資源」として有効活用するためにどうすればいいのか、どういう状態ならリサイクルできるのか、などを伝えていくことが、水平リサイクルを推進するために必要です。

吉岡:リサイクルしたフィルムに何が混ざっているか分からない状態にしない、ということも、お客様に安心して使って頂くために大切です。東レのフィルムを東レで回収することにより、MLCC用途において重要な高い品質レベルの表面特性を担保できます。さらに、東レの素材だけで循環させることにより、トレーサビリティの点でも利点があります。

森本:MLCCメーカーの先にいた加工メーカーとも、回収のプロセスにおいて接点が生まれました。これまでは目の前のお客様との関係だけであったところ、その先の、さらにその先にいるリサイクラー等も巻き込んで、サプライチェーン全体で取り組む流れが出来つつあります。
サプライチェーンに対する働きかけについては、東レが業界を先導する立場として責任を果たしてきました。リサイクルを実現するために、どうすれば資源として活用できるか、東レにはこれを率先して実行してきたからこその知見があります。将来的なリサイクル技術の発展と循環型社会への移行に伴って、お客様にも今ご使用頂いているフィルムを「資源としてリサイクルするにはどうしたらいいか」という視点で仕組みづくりや取り組みを進めて頂けたらと思いますし、東レはそのお手伝いが出来ると考えています。

フィルム回収・洗浄における共創をひろげる

吉岡:使用済みフィルムは洗浄しないと資源として使えないので、安定して拡大していくためにも、回収したフィルムの洗浄を担う共創先を求めています。

森本:使用済みフィルムを分別・回収するメーカー、フィルム上のコーティング等を除去する前処理業者やリサイクラーと連携し、リサイクル可能な資源を増やすと共に、リサイクルしたフィルムを購入頂くお客様も増やしていきたいです。
他にも、どのような業界・メーカーにおいて資源となりうるものがあるかについて豊富な知見を持つ廃棄物処理業者とも積極的につながっていきたいですし、PETフィルムのコーティングの除去技術向上においても様々な機関と連携・共創できるといいですね。

吉岡:共創先を増やすための接点としては、展示会への出展や東レがどのような考えのもとで資源循環やサステナビリティイノベーションを目指すのかについて講演を行ったりしています。まずは既存のお客様に、この取り組みの重要性を理解して頂き、その先のステップとして新規のお客様にも周知してもらえるよう働きかけていきます。

森本:近い将来、MLCC業界以外のお客様ともリサイクルにおいて共創していけたらと考えています。
分別によって発生するロスや回収しきれないものがあるといった課題に対して、東レがまとめて回収し、クリーンかつリフレッシュした状態の樹脂に戻していく。さらに他社が技術的に回収しきれないものについても間口をひろげ、「リサイクルの環」を拡張していきたいです。
資源循環を目的としていますが、その先に目指すこととしてはカーボンフットプリントの軽減にも貢献することを視野に入れています。

社内外で想いをひとつに、サーキュラーエコノミーに取り組む

吉岡:リサイクルフィルムは「Ecouse®」というブランドで展開しています。
昨今、MLCC用途に限らず「リサイクルフィルムありますか?」と問い合わせを頂くことが増えてきました。これをビジネスチャンスと捉え、「リサイクルフィルムといえばEcouse®だよね」との認知を拡大していきたいです。

森本:サーキュラーエコノミーというテーマを通じて、従来の取引先・サプライヤーとの関係を超えたサプライチェーン全体そして社会全体で、この課題に取り組んでいこうという一体感が醸成されつつあると感じています。
東レの企業理念に「わたしたちは新しい価値の創造を通じて社会に貢献します」とある通り、お客様への単なるモノ売りから脱却した、循環型社会の実現に向けた共創という新しい関係性の構築や、そのための新しい技術やリサイクルのための仕組み構築といった価値の創造が東レで働く我々の使命です。
私はもともと工場でフィルムの設計や生産に携わってきました。その経験を踏まえた上で、この仕事に携われることはとてもやりがいがありますし、この「みんなで一緒に良いものを創ろう!」という過程そのものが純粋に楽しいと感じています。
リサイクルによって様々なコストが増すなど、ビジネスを行う上でのシビアな面は確かにあります。ですが、未来のために必要なことを行っているというプライドや新しい仕組みづくりにチャレンジすることの楽しさが、モチベーションに繋がっています。

吉岡:私も、業界内でも前例のない取り組みにより、環境に優しい東レ製品を社会に届けようという前向きな気持ちが原動力になっています。
このMLCCフィルムリサイクル事業は、先にご説明したサプライチェーンだけでなく、東レ社内でも多くの部署が関わります。同じベクトルで取り組みを進めていくために、そうした関わる人々の想いをひとつに束ねていく役割を営業として果たしていきたいです。