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環境ソリューション室が牽引する
サーキュラーエコノミー推進

勅使川原ゆりこ
(東レ株式会社マーケティング部門
環境ソリューション室 室長)

事業横断的に
新たな価値創出を加速させる

ー東レでは、2022年6月に「環境ソリューション室」が新たに発足されました。その狙いはどんなところにあるのでしょう?

世界的に需要が拡大する環境領域やモビリティ領域において、技術開発と営業とが分野横断的かつグローバルに連携し、東レグループの先端材料によるトータルソリューションを提供することによって、これら領域の事業拡大を加速させたいという思いが原点にあります。そのなかで、これら領域における営業力強化を図ることも目的に、東レグループの多岐にわたる営業情報を一元管理し活用することで効率的な営業活動を展開できるよう、マーケティング部門の中に「環境ソリューション室」および「ネクストモビリティ室」が新たに設置されました。これは、当時は副社長だった大矢(現、東レ社長)の主導のもと、全社をあげてサーキュラーエコノミーに取り組んでいこうという構想から出来上がってきたのです。

ー サーキュラーエコノミーに注力していく方針は?

「廃棄してしまっている資源をリサイクルできないか」という声は、もともと事業の現場には強くありました。そうした資源を循環させる取り組みを、どう事業化していくかを考えたときに、全社軸で、「ポリマー」という単位で見ていくのがいいだろうと。そのためには、これまでとはちがう組織の枠組みが必要だということが「環境ソリューション室」立ち上げの背景にありました。

ー「環境ソリューション室」の特色を教えてください。

「環境ソリューション」という名称を背負っていますので、他社のサステナビリティ推進部のように全社としての仕組みを作らなければいけないという側面がある一方で、サステナビリティに資する事業を創出するための解決策(=ソリューション)を示し、企業としての価値を向上させることも重要です。

すなわち、各事業部と密接に連携しながらいかに事業として進めていくか、環境や資源循環に取り組みながら事業としての収益性をいかに確保するかという課題に答えを出すことが、マーケティング部門の中にあることの意味であり、環境ソリューション室の特色と言えます。

ー 環境ソリューション室長に就任されてから、ご自身の考え方に変化がありましたか?

これまでは「製品」にフォーカスして、その製品をどう売っていくかに注力してきました。しかし、サーキュラーエコノミーにおいては「循環」させることが大切なため、原料がどうあるべきか、できあがった製品をどう「活用」・「再利用」するかという目線が重要になります。例えばポリマーあるいは製品が出来上がる前段階のモノマーについて、事業を跨いで考えなくてはなりません。私自身、現職に就いてからはこれまでよりも尚、製品だけでなくポリマーそのものにも目が向くようになりました。ポリマー毎にどういうサーキュラーエコノミーを実現していくべきか、そのために事業を跨いで全社でどう課題を解いていくべきかという新たな問いに向き合うようになりました。

製品は時代によって姿を消しても、「技術」は残りつづける

ー 素材を根幹に強い経営基盤を築いてこられました。

東レには「素材には社会を変える力がある。」というキーメッセージがあります。弊社の歴史を紐解くと、1926年にレーヨンの製造からスタートし、合成繊維、フィルム、樹脂、電子情報材料など、実にいろいろな素材を世に送り出してきました。ただし、ベースにあるのは一つの技術、すなわち高分子化学技術です。この技術を、市場や顧客のニーズに合わせて、さまざまな素材に変化させてきた歴史だと言い換えることもできるでしょう。

ー 大矢社長は「素材の宝庫」と東レの強みを語っておられます。

ひとつのポリマーを繊維、樹脂、フィルムとさまざまな素材に変え、加工できるのが東レの強みです。

例えばPETを繊維や織物にするだけでなく、縫製品にまでできる企業は東レくらいです。この能力を武器にファーストリテイリング様等との共創によって、より消費者に近い声を聞くことができるようになり、その意見を製品開発に活かしながら、事業を伸ばしてきました。私は東レに入社後、フィルム事業本部に配属されて以来、28年にわたってフィルム一筋だったのですが、そのフィルム領域では、いかに表面を平滑にするかという技術を追求してきました。それが事業として成立したのがビデオテープやカセットテープでした。今ではそれらの製品は作られていません。けれども「表面を平滑にする」技術は、今ではスマートフォンの部品に応用されています。たとえ製品がなくなってしまっても、技術と素材は生き続けていく。技術があるかぎりは、形を変えて世の中に残り続ける。それが「素材の宝庫」ということなのかなと私は理解しています。

ー 素材の解像度があがっていくということでしょうか。

事業を展開していくなかで、それぞれの需要に寄り添う技術が生まれていき、その事業を支えています。それらが大きな柱となり、東レの確固たる事業基盤を築いてきました。

これまでは、さまざまな素材に変えながら事業が拡がっていったのですが、リサイクルにおいては、拡充した製品から原料へ戻していく過程に東レの技術を活かしていかなければならないと考えています。形を変えて展開してきた「素材」を、今度は時代の要請に応じて、バイオや再生可能なものに変えていこうとしているのです。東レのサーキュラーエコノミーサイトのタグライン「Change materials , Go circular」は、私たちが目指す世界観を表しています。

繊維、フィルム、樹脂などの各事業だけでは全体像を捉えるのが難しいため、ポリマーを軸に、全社横断的に取り組みを推進していこうとしており、そこに環境ソリューション室の役割と期待があると思っています。 リサイクルする、バイオに変える、その仕組みを築いていくところまでが私たちのミッションと捉えています。

サーキュラーエコノミーに社員一丸となって取り組む

ー 社員への環境教育を通して、社内の空気も徐々に変わってきたと聞きました。

日本でもサーキュラーエコノミーやカーボンニュートラル関連のさまざまな規制が始まっています。また、投資家からの要請に応えるべく、東レもTCFDレポート の制作やCDP(Carbon Disclosure Project)へデータを提出しています。そうした情報開示はしっかりと行いつつ、一方で実際の行動変容を伴うところまで出来ているか、やれるか、というところが次の課題と思っています。サステナビリティ、気候変動、サーキュラーエコノミー、脱炭素、カーボンニュートラル等の言葉は、新聞などのメディアで見ない日はありません。でも実はその意味が本質的に理解されていないという課題感を持っています。言葉の意味を正しく知っていなければ、正しく発信できません。

そこで、正しい知識をまずは社内に浸透させようということで、3回にわたる社員教育を行いました。延べ1万人が受講し、この環境教育を通じて環境の取り組みへの関心が高まったという回答がアンケートで得られました。それでも実際の行動に繋げるためには、もっと深く知ることが大切だと感じましたので、こうした機会を積み重ねていきたいです。

私たちは石化資源を使い、それを製品に変え、販売しています。この石化資源を使って事業を行っていることが大きな問題となっているという認識を、誰よりも私たち社員が自分事として持たなければいけないと思います。

ー 共創パートナーとの連携強化に向けて?

国内の自動車関係のお客様とのミーティングに参加した際に、自動車と直接は関係のない衣料用リサイクル繊維の取り組みである「&+(アンドプラス)」について東京マラソンの事例とともにプレゼンテーションを行ったところ、思っていたよりも多くの質問をいただきました。この経験から、社内の各事業の製品や事例を異なる視点から発信することで、お客様との更なる連携の可能性が拡がると実感しました。

例えばフィルムの取引先にも、「フィルムだけではなく、繊維でこのような取り組みがある」とご紹介することで、共創できる部分が増えていくのではないかと思います。取引先から「こんなことに興味があるから、もっと詳しく聞かせてほしい」という風なお声をもっといただけるようになっていくといいですね。

ー エンドユーザーである消費者への働きかけも重要ですね。

東レは、東京都がエシカル消費をより多くの都民に広げていくためにスタートした「TOKYOエシカル」の趣旨に賛同し、パートナー企業として参画しています。日々消費している商品の生産の背景を知り、「エシカル消費」を実践するきっかけを作ることで、環境や社会課題についての意識づけを、強く押し付けるのではなく、静かに浸透させるようなかたちで働きかけられるといいですね。

たとえば何かの商品を手にしたときに、これってリサイクルできるのかな? リサイクル素材から作られているのかな? と「気になる」ことが大事だと考えます。
とりわけ、α(アルファ)世代とよばれる小中学生にむけては、東レのコーポレートスローガンでもある「Innovation by Chemistry」の可能性を理解してもらえたらいいなとの思いから、『青空サイエンス教室』や学校への出前授業を開催しています。現在では、学校のカリキュラムと連動させて、濾過や海水の淡水化についての理科教育支援プログラムを行っていますが、資源循環のテーマでも出張授業・教材提供による次世代育成支援活動を展開していきたいです。

こうした場で参加者の反応をダイレクトに受け止めることは、社員の意識を高めることにも効果的でしょうし、社内外それぞれの想いや気づきが交わされ、共鳴することで、環境ソリューションに対する意識が高まり、拡がっていくのではないかと思います。

資源を循環させることで、未来の資源を確保する

ー 東レのサステナビリティ・ビジョンの中に「資源循環型社会の実現」が入っています。

東レが2050年に目指す4つの世界として掲げたのが、サステナビリティ・ビジョンです。そのうちの1つに「資源が持続可能な形で管理される社会」が入っています。また、中期経営課題「プロジェクト AP-G 2025」においては、東レグループのサステナビリティ・ビジョンの実現に貢献する事業・製品群を収益機会の拡大と捉え、サステナビリティイノベーション事業を成長領域として打ち出しています。

これから先、環境や社会の大きな変化によってビジネスを失うことがないように、むしろビジネスチャンスとして掴むよう、今からサステナビリティイノベーション事業に取り組むことが必要です。
今はまだ石化資源を使っていますが、これからもっとリサイクルやバイオを活用して資源を循環させていくことで、東レ自身がサステナブルであることに繋がっていくはずです。サーキュラーエコノミーの推進とサステナビリティイノベーション事業の拡大によって、それが成し遂げられると考えています。

有限である資源が枯渇していくなかで、継続的な調達ができなければ私たちは製品を作り続けられません。調達が、これからのビジネスにおいては非常に重要なテーマです。資源を循環させることは、すなわち未来の資源を確保することであり、これが未来の東レのビジネスを支える機動力になっていくのだと思います。

ー「Innovation by Chemistry」に東レの信念と強みが凝縮されています。

東レは創業以来、「研究・技術開発こそ、明日の東レを創る」との信念に基づき、先端材料の研究・技術開発を追求してきました。まさに「Innovation by Chemistry」こそが、サーキュラーエコノミーの実現や環境・社会課題解決の原動力になると思います。これからもこのコーポレートスローガンのもと、社員一同そして資源が循環する社会を目指す社外の皆様と力をあわせて、最適なソリューションの提案・推進を通じて、持続可能な未来社会の実現に貢献してまいります。